マンション管理業界の動向

日本のマンション管理は管理組合が自分たちで行うというのが建前です。しかしながら、建物や設備の複雑な維持管理、難解な区分所有法や管理規約、30年という気の遠くなる期間を単位として行われる長期修繕計画、10数年に一度多額のお金を使って行われる大規模修繕など、どれをとっても輪番で初めて理事になった方にはハードルが高い代物です。
そこで、それを補完・支援するものとして、法律によりマンション管理業者というものが用意されています。いわゆる管理会社です。

このマンション管理会社数は2015年度時点では全国で2,185社でしたが2021年度末では1,934社に減少しており、その大きな要因は企業買収といわれています。大手による管理市場の寡占化が進んでおり、2022年末で694万戸といわれる分譲マンションのうち、2021年3月末では管理戸数上位15グループで61.3%の市場占有率となっており、たった15グループで6割以上を管理していることになります。

寡占化が直ちに悪いことではありませんし、自分のマンションの面倒をみてもらうのなら大きい会社の方が安心できる、という気持ちも分からないではありません。
しかし、その背後で起きているいくつかの事がマンション管理組合の運営とその将来に大きな影を落としていると言えます。

①業務効率化と生産性向上の追求が進んでいる

管理委託業務の中で最も非効率的なのは管理員業務といわゆるフロント業務です。究極の管理員業務の効率化はロボット化やAI化でしょうが、人間にとって代わるのはまだ先の話しです。
フロント業務も人間による業務ですが、1人当たりの担当件数を増やすことと業務の標準化とIT化により、効率化を図ろうとしています。その狭間で悩まざるを得ないのがフロントマンで、どこの大手管理会社もフロントマンは常に転退職を繰り返していて不足状態ですし、心を病む者も少なくありません。

②工事獲得が大きな目標になっている

大手の管理会社はデベロッパーの非上場子会社が多く、財務内容が公表されている所は少ししかありませんが、上場管理会社などの財務内容を見ると、売上高1千億円クラスで、そのうち40%から50%を工事の売上が占めており、中堅ゼネコンが羨むような金額です。
大手の管理会社にとって、手っ取り早く売上や利益を増やせるのは工事です。フロントマンの表には出ない、しかし重要な仕事の一つは、工事のあるところを見つけ、工事の提案をし、工事を獲得することです。
マンション管理適正化法では、「マンション(専有部分を除く)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整」という長い名前の業務が出納・会計とともに基幹事務の一つとして定められていますが、この業務の実態は、定期点検等により発見された不具合について修繕等の見積を提出することです。
事務管理業務を受託し、管理組合利益の最大化のために事務を行っている者が、常に管理組合の懐具合を把握しつつ請負者にもなるというのは公正なのでしょうか。利益相反にはあたらないのでしょうか。
そして、もう一つ問題なのは、マンションの修繕・維持専門業者のかなりの部分が大手の管理会社の仕事をしており、管理組合が直接見積を取得しにくい状態にあることです。
消防設備点検にしろ、排水管清掃にしろ、現管理会社の系列外の見積を取るのはとても難しい事になっています。

③小規模マンションなどは不採算マンションとして値上げの要請と契約の打ち切りが多発している

大手管理会社各社は人件費の高騰を理由に委託費の値上げに動いていますが、特に小規模マンション、工事獲得の少ないマンション、手間のかかるマンションでは、値上げが受け入れられない事を理由として管理の打ち切りが頻発しています。
某財閥系管理会社では、デベロッパーである親会社が分譲するマンションの管理さえ行えばよいとして、50戸以下のマンションから撤退したとの話しもあります。

④管理会社どうしのグループ化や協定が進み、管理会社変更の選択肢が狭まっている

管理会社の買収は既に日常茶飯事で、A会社の管理からやっとの思いでB会社の管理に変更したのに、気が付いたらB会社はA会社の子会社になっていた、などという笑えない話しもままあります。
またお互いのテリトリーを犯さないように財閥系どうしが手を結ぶ、あるいは建設会社の親会社の意向でクライアントにあたるマンションデベの子会社の管理には手を出さない、というような傾向が見られ、一昔前よりは確実に管理会社の選択肢が少なくなっています。

このように見てきますと、大手の管理会社が巨大な力を付けてきており、管理員や清掃員等の人件費の高騰もあり、利益の出ないマンションや工数のかかるマンションは切り捨てられる可能性が高まっています。

⑤管理計画認定制度が始まっている

現在国を挙げてマンション管理計画認定制度というものが推進されています。
これは「管理組合の運営」「管理規約」「管理組合の経理」「長期修繕計画の作成、見直し等」「その他」について17項目の基準(地方自治体独自の基準が追加される場合あり)が定められ、その基準をクリアーしている場合にはその旨が公表されるとともに、住宅ローン金利の引き下げなどのインセンティブが与えられるというものです。
管理計画が認定されているマンションは財団法人マンション管理センターのホームページに掲載されていますが、2023年9月6日現在全国で161件のマンションの名前が掲載されています。
この数を多いとみるか少ないとみるかは人それぞれですが、長期修繕計画など厳しい基準が設定されている項目もあり、認定取得にはそれなりの努力が必要とされます。
この管理計画は最終的には各地方自治体が認定することになりますが、そこに至るまでに事前確認の仕組みがあり、マンション管理業者の団体、マンション管理士の団体及びマンション管理センターが行っています。

大手の管理会社は、現在自社が管理を受託しているマンションに対し、マンション管理適正評価制度(管理業者の団体が行う評価制度⇒事前確認にも使える)の取得を勧めていますが、自社が管理業務を受託しているマンションの評価を自社で行う結果になり、また有償で毎年更新となるため、管理組合のメリットは少なく、導入は時期尚早と言えるでしょう。

管理組合にとって一番心がけるべきは、やはり区分所有者の努力で貯めた資金を、どのように有効に、かつ低コストでマンションの維持管理に使えるか、その仕組みを構築・維持することにあります。
管理会社への過大な依存は禁物です。

⑥第三者管理者管理に注力し始めている

管理会社が区分所有法上の管理者になることは、投資用マンションなどで以前から一部の管理会社で行われていましたが、役員のなり手不足を背景に、最近大手の管理会社でも取組み始めており、専門の部署を設けている会社もあります。

しかしながら、この場合の最大の問題点は、管理者を出している同じ管理会社が管理を受託し、併せて工事も行うことです。
総会決議を経るから客観性や公平性は大丈夫という考え方や監事がいるから大丈夫という考え方もありますが、総会や監事自体が管理会社の働きかけの対象になるという懸念も十分にあります。

そうなった場合、仮にその体制がおかしいと考える区分所有者がいても、区分所有者の名簿が手に入らない⇒賛同者を募ることができない、総会の招集ができない、管理者や管理会社を変えることができない、ということになります。
さらに管理会社が管理者になることが規約に定められているようなマンションでは、特別決議が必要になるため、さらに変更のハードルは高くなります。

国でもこの問題を意識しはじめて検討しているようですが、実効性ある対策が出てくるかどうかは分かりません。
管理組合として第三者を管理者とする場合は、信頼できる相手かどうか十分にご注意ください。特に管理会社を管理者にする場合は、仮にスタートしてもそれを終えるための手続きが何か、それが実現可能かをあらかじめよくよく検討してください。